My hero,my mystery

特撮ヒーローとミステリのブログです

NHK発『犬神家の一族』所感

 4/22と29の二週にわたって『犬神家の一族』の新作ドラマがNHKで放送されました。横溝作品の映像化といえば犬神家、これをやらなきゃ始まらないってんで、金田一耕助を演じる俳優さんが増える度に、その人による犬神家新作が作られている感がありますが、マイベスト金田一である故古谷一行氏を超える金田一役者は今のところナシ。今回の新作もその点であまり期待できなかったんですけど、脚本が小林靖子氏ということで観てみようという気になりました。

 このサブブログの二大テーマは特撮とミステリ。特撮ドラマの脚本家として高く評価されている小林氏が横溝作品をどう扱うのか。そこが一番興味を惹く部分だったのですが……結論から申しますと「残念」。ただし、あくまでも個人の感想なので、そのあたりは御了承ください。

※以下、ドラマの内容に触れています。未視聴の方はここまでにすることをお勧めします。

 

NHKドラマ『犬神家の一族』公式より

 今回の金田一を演じるのは吉岡秀隆氏。とぼけた白髪のおじさんというビジュアルからして「ああ、あかんわ」。犬神家の事件が起きた時の金田一は三十代という設定なんで、せめて黒髪でやって欲しいし、できればもうちょっと若々しさがあってもいいんじゃないかと。どうしても1977年のドラマでの古谷氏や、横溝ブームの発端となった1976年の映画での石坂浩二氏と比較してしまう。ま、結局、オラにとっての金田一はこの二人だけなんだよね。

 また、その他のキャスティングでは野々宮珠世を観て「え~っ」と叫んでしまった。あのさ、ヒロインだよ? 絶世の美女って設定だよ? そりゃ演技力には定評があるんだろうけど、だからといってあそこまでイメージとかけ離れていいってことはないっしょ。珠世というキャラは美人であることはもちろん、神々しくて近寄り難い、まさに高嶺の花そのものだからさ、可愛いとかセクシーなタイプでもダメなわけだ。ツイで「珠世は北川景子が良かった」と呟いている人がいたけど激しく同意したわ。若手では浜辺美波氏ね。ベスト金田一によるベスト犬神家の1977年ドラマはキャスティングもベストだったけど、珠世だけがイメージからはずれて減点対象だったからね。

 珠世以外のキャストはまあ、こんなもんかなといったところで、全員が自分のイメージと合うってのはなかなか難しいから仕方ないんだけど、古舘弁護士は痩躯の学者タイプ、猿蔵はガタイが良くて髪も髭もぼうぼうといった感じが良かったんだけどな。その点、やはり1977ドラマはバッチリだったわけだ。特に京マチ子氏の松子なんて、杉本一文氏が描いた文庫本の表紙そのものだったし。今回の松子・大竹しのぶ氏はルックスこそ松子っぽくなかったけど、演技力でカバー。さらに、佐清・金子大地氏は目の演技が良かった。マスクを被っていると目で全てを表現しなきゃならないけど、中身が静馬の時と佐清の時の演じ分けが◎。佐清はイケメンってのは絶対に外せないからね。結局、金田一・松子・珠世・佐清という四人のイメージが合えば及第点かな。

 それでは問題のストーリーですが、まずは金田一が住む下宿のおかみさんとして倍賞千恵子氏が登場。この場面を観たオラは金田一が一時期身を寄せていたという、風間俊六の二号さんの店の離れだと思っていました。つまり倍賞氏が二号の役、粋な着物姿だったしね。ところが下宿代を請求されていたことからして普通の賃貸らしい。えっ、それならもっと庶民的なオバ女優さんに演じてもらった方がいいのでは。建物は庭が見えて風流(笑)だし、ぼろアパート感がない。その点でも1977年ドラマが正解だと思ったよ。

 金田一が若林助手の連絡を受けてからの、犬神家に出入りするまでのくだりは順当で、若林がトイレではなく外で死んでいたとか、ファンの間で言われていた「橘所長を磯川警部にするのはどうよ」といった改変もそう気にはなりませんでした。所長や警部のキャラの改変は映像化につきものだったからね。金田一が若林殺しの容疑者として疑われるシーンも早々に解決させていましたが、そのあたりもとっとと終わらせていいと思う、そこに尺を使っている場合じゃないし。

 また、金田一が事件の真相を解説する際に、初っ端で珠世が狙われた事件(ボートの沈没・ベッドに潜むヘビ等)の犯人は珠世を妬んだ小夜子の仕業とした改変もむしろOK。なぜなら珠世が好きなのは佐清だとわかっている松子には珠世を殺す理由がない、逆に殺してしまうと損だからで、これは原作の設定ミスではと思っていたんですよ。とはいえ、ボートのシーンもしくは珠世が何らかの形で命を狙われるシーンをやめると、事件のとっかかりとオープニングからの不穏な雰囲気作りも、若林を殺す必要もなくなってしまうので、ここはナイスフォローじゃないかなと。

 ただし、その改変を採用するためには遺言状の公開前から佐智が珠世に接近しているシーンが必要で、そもそも佐智は「結婚して遺産を二人分にする」目的があるから小夜子と付き合っていたわけでしょ。遺言状で全てが珠世次第とわかってから色目を使うようになったのであり、それまでは歯牙にもかけなかったというのが原作での話。ならばここは「佐智が珠世だけでなく使用人の若い女にも手を出そうとしていた」といったストーリーを入れて、彼の女好きが招いたプロローグとした方がしっくりくると思う。

 佐武・佐智殺しについては滞りなく?進んだかな。佐武の菊人形はこの作品の花形シーンのひとつだから絶対に外せないし、ここを雑に扱われると「はぁ💢」って感じになる。佐智殺しは些か無理があるため、現場が廃屋であってもどこでも仕方ないんだけど、箏の糸だけは忘れないでねってところ。また、個人的には「行き場のなくなった佐清が柏屋を訪れる」シーンが好きなんで、そこを丁寧に描いてくれると嬉しくなります。今回はいい方だったな。ただし、今回のドラマではせっかく箏の師匠が登場したのに、その正体が青沼菊乃だというくだりがなかったじゃないですか。やらないなら出さない方が良かった。いつ、静馬と母子の云々のシーンがあるのかと思いきや、ただの師匠だったなんて。期待させないでくれ。

 さて、これまでの映像松子は佐清のことを信用しきっていた、少なくとも手形が一致したあとは全く疑っていなかったという描き方をされていましたが、今回の松子は最後まで本物の佐清かどうか不審に思っているといった態度で、それはそれでいいかなと。ただし、珠世が疑っている(避けている?)→戦争に行く前は佐清のことを好きだと思っていたがむしろ嫌っているようだ→ならば邪魔者の佐武&佐智を殺すしかない、といった松子の動機が成り立たなくなってしまうのでは。

 おまけに、静馬は母恋しのいいヤツで、佐清の方が曲者だったという大胆な改変。これだけはやって欲しくなかった。花形シーンその2の「湖に浸かった逆さの男の脚」はやらないわけにはいかないけど、せっかくのそれが台無しになっちゃったじゃん。そもそも「ヨキケス」の判じ物になってないし(「ヨキケス」にしなかった映像化はそこそこあるけど)「よき・こと・きく」の呪いでも何でもない。「呪いや祟りといった非科学的な殺しに見えて、そのじつ論理的な殺人事件」というのが横溝ストーリーの持ち味なんだけど、静馬にその気(恨みを晴らす気)がなければ成り立たないわけで、この物語の根幹を揺るがしてしまったよ。

 そもそも佐清がそんな小賢しい悪党だとしたら、珠世は彼のことを好きになるのか。ルックスだけでなく中身も素晴らしい青年だからこそ好きになったんでしょ、翁もそれは承知していたと思う。また、佐清としては珠世が自分に好意を持っていると気づいているだろうし、彼らが結婚すれば済む話なわけで、リスクを冒してまでこんなことはやらないでしょう。二人の共犯って方がまだ理解できるわ、そんな話イヤだけどさ。佐清と珠世のカップルはこの作品の良心であって欲しいというのがファンの心情であり、狂志郎垢でフォローしているミステリ関係の皆様からも同様の意見が聞かれました。

 これまでにない解釈の犬神家にしたいという意気込みはわかりますが、変えていいところと悪いところがある、横溝ファンとしてはそこらを承知しての映像化を希望したいと思います。